今回は、表具で使用する物差しについてのお話を。
表具でサイズを測る場合は、尺や寸という単位で目盛りを打った物差しを使います。この物差しは表具以外でも日本の伝統産業でよく使用されます。
中国から伝わった尺貫法(しゃっかんほう)による単位ですが、日本でメートル法に切り替えていくなかで一度使用禁止にまでなった単位だそうです。しかし永六輔さんの”尺貫法復権運動”によって一部を除き使用可能となっています。
もし尺貫法が使用禁止となっていれば作業効率がかなり落ちると思います。サイズがわかりやすいのです。メートル法の物差しで作業をするとしたら、細かい目盛りで何mmとか早々に目が疲れてしまいます。
表具で使用する物差しは一尺・二尺・三尺の三種類です。と、慣れていないうちに一尺だと言われてもピンとこないと思います。一尺は約30.3cmになります。
一尺の10分の1が「一寸(いっすん)」で約3.03cm
一寸の10分の1が「一分(いちぶ)」で約3mm
一分の10分の1が「一厘(いちりん)」で約0.3mmになります。
また、10尺で「1丈(いちじょう)」になり約3.03mです。
今となっては、物差しの目盛りもすぐ理解できますが表具の世界に入りたては、まぁわからなくて慣れるまで苦労しました。しかし一度慣れると今度はメートル法の感覚がわかりにくくなるのです。そして○○cmといわれた場合、自然と「△尺△寸だな」と変換する癖がつきます。
また、自分の手のひらを広げたときの親指先から小指先間の長さを測っておき、それを基準にしゃくとり虫のように動かし、およその長さを測るなんてこともします。この動きこそ”しゃくとり虫(尺取り虫)”の名前の由来だとか。
ここで、いくつか昔からあるものの大きさを見ていきます。
ことわざの中に「一寸の虫にも五分の魂」とありますが、ことわざの意味は別にして一寸の半分が魂ということになり結構容量を占めていることになります。
江戸時代に活躍し大相撲史上最強といわれている雷電為右衛門(らいでんためえもん)は身長6尺5寸あったそうです。つまり約197cm。現代でも十分大きいです。
宮本武蔵と決闘したことで有名な佐々木小次郎の愛刀「物干し竿」は”三尺の白刃”といわれています。つまり約91cmの刀身だったことになります。
高野山の壇上伽藍にある鐘。名を「高野四郎」といいます。当時日本で四番目に大きいといわれたこの鐘の直径は7尺。約2.12mになります。
そして、高野山奥の院で一番大きな墓石、通称「一番石」。高さ約2丈2尺 6.6mにもなる巨大な墓石です。ちなみに、この墓石は織田信長の妹「お市の方」と浅井長政との子で三女の「お江」の供養塔です。
尺貫法で記された大きさもメートルに変換するとわかりやすくなるのでは。せっかくの日本古来の文化ですから触れる機会が増えるといいなと思います。