甕の中で何が起きているのか?

今年は暖かい冬で助かると思っていたら寒波が来ましたね。その寒波を逃すまいと今年も古糊の水交換を行いました。

平成28年と30年に仕込んだ糊は、変化が少ししか現れていません。古糊が仕上がるのに最低10年かかりますので、根気よく寝かすしかありません。

古糊

有機化学の博士による古糊についてのお話では、仕込んだ古糊甕の中ではデンプンの老化(再結晶化)とカビによるデンプンの分解が行われているそうです。

糊化したデンプンが冷えることでデンプン分子が再び結晶化しようとします。これが進むと分子同士が絡み合いにくくなり水で容易に剥がれる接着力の弱い糊になっていきます。そしてカビによりデンプンが分解されデンプン分子量が小さくなっていく。この小さくなった分子量のおかげでしなやかな仕上がりになるのでは、ということでした。古糊甕の中では一年間の気温に応じて上記のような現象が起き、寒い時期にはデンプンの老化、暖かい時期にはカビによる分解を毎年繰り返すことで古糊になっていくようです。

さらに博士は、工程を解明できたのなら化学の力で古糊を再現できるのでは?要はデンプンを老化させ酵素で分解させ、ちょこっと細工を施せば・・・ということで試したところ数週間で性質のよく似た糊を作ることに成功したそうです。十数年を数週間に短縮した科学の力に驚かされるばかりでした。

博士は「化学の力で解明できると信じているので信仰はしない。あえてするなら有機化学の神様」とおっしゃっており、この力を見せつけられるとそう思うのも無理もないのかもと思いました。

でも昔の人は、どうやって古糊の有用性に気づいたのだろう?

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