当店が所有している掛け軸で、大徳寺塔頭黄梅院第14世住職 大綱宗彦和尚の和歌です。大綱和尚は江戸時代後期の僧で和歌、茶の湯を能くし書画に優れたそうです。
僕が京都で居るときに、黄梅院さんの第20世住職 小林太玄和尚の掛け軸を山盛り表装させていただきました。そのこともあって、この大綱和尚の掛け軸に勝手に親近感を持っております。
和歌は
「比く人も 比かるる人も 水乃阿者の うき世なり介梨 淀乃川舟」
と書いてあるようです。
比や阿の字は変体仮名と呼ばれるもので現在使われている平仮名の異体字らしいです。比⇒ひ 乃⇒の 阿⇒あ 者⇒は 介⇒け 梨⇒り と変換でき、よって現在の平仮名で書くと
「ひく人も ひかるる人も 水のあわの うき世なりけり 淀の川舟」
となるのでしょうか。
この表装の一文字に使われている裂地が、竹屋町金襴です。中でも絧入り(どういり)竹屋町といわれるもので、金紙以外に色糸(絧)を使って文様を織り出し、とても華やかな竹屋町です。
中廻しに使われている裂地が絓(しけ)です。元々は、不良な繭から作られた絹糸で織り出されたため所々に節やコブがあります。よって安価な裂地でしたが現在では、意図的に節やコブの入った糸を作り織り出しているため、高価な裂地になっています。この裂地の由来もあってか、茶室に掛けるような掛け軸(茶掛け)によく使われます。粗い表情ながらも雅やかな裂地です。
次に上下の裂地に使われているものが揉み紙と呼ばれるものです。素材は和紙でできています。和紙に顔料を塗った後、その和紙を揉み、皺を作ります。その皺部分の顔料が剥離し模様になります。揉み紙は二色の顔料を塗られます。そのため剥離した部分から下に塗った顔料の色が出てきます。元々は古びた表現のために皺を付け始めたそうです。
禅と茶の湯は深い繋がりがあるそうです。そして、茶道において大徳寺高僧の墨蹟は「大徳寺物」と称され、大切にされます。そんなことから、この掛け軸も茶掛けとして仕立てられており、内容が和歌ということもあり、絧入り竹屋町で華やかさも加えてあるのでしょうか。仕立てが内容に沿うよう考えられていることが、見てとれます。