まるで梅雨時期のような長雨がようやく収まり、猛暑が戻ってきました。雨が続いていたので、カビが出ないかと心配になります。今回は、そんなカビのお話…ではなくカビに並び天敵である虫についてのお話です。
桐箱に収まった掛け軸は、収納中に虫による食害に遭うことがあります。虫は巻いた掛け軸を軸棒へ向かって穴を掘るように食べ進むことが多いので、いざ掛け軸を広げたとき虫食い穴が飛び飛びに出てくることになるのです。
この虫による食害から掛け軸を守るには、気密性の高い箱に収納することが一番効果的と考えます。以前にも紹介しました印籠型の桐箱は、とても気密性の高い構造になっており、また素材の桐はタンニンを多く含み、虫が嫌うのです。古くなった箱は、経年変化で木が痩せ、蓋との間に隙間が生じていることがあり、この隙間から虫の侵入を許してしまいます。
防虫対策としてよく使われるのは防虫香です。桐箱の中に防虫香を入れ、その香りを虫が嫌がることで侵入を防ごうとするものです。防虫香として使われる有名なものは、白檀・樟脳・竜脳・丁子などです。白檀は正倉院御物にも添えられていたそうです。これらは天然の香木・香料であり高価なこともあります。なので最近は、人工的な成分による安価な防虫香もあります。
しかし、防虫香の中で気を付けなければならないのが、樟脳や竜脳また安価な防虫香です。これらは成分が気化しやすく、たちまちに箱内に充満します。この気化した成分が掛け軸に染みを出したり、金具を変色させることがあるのです。掛け軸を守るつもりが逆に痛めてしまうことになってしまいます。気密性の高い桐箱に入れておれば、虫の侵入はそうそう起こらないと思いますが、防虫香を入れる場合は、白檀の木片を和紙などで包み入れておくことが良いかと思います。
気密性の高い桐箱に入れしっかりと蓋をし、時期が来れば虫干しを行うことが、一番掛け軸を守れることでしょう。