掛け軸を彩る銘木【黒檀・紫檀】

今回は、掛け軸の軸先で塗りものや金物ではなく木材自体を軸先として使う銘木についてちょこっと説明を。特に良く使用される木材が、黒檀(こくたん)と紫檀(したん)です

黒檀の木イメージ

黒檀はインドや東南アジアを主な産地とする木材です。カキノキ科カキノキ属に属し、心材は非常に硬いため、古くから家具や弦楽器の指板などに利用されてきました。中でもピアノの黒鍵に使用されていたことには驚きです

産地によって見た目が異なり、インドやスリランカで採れるものは真っ黒で「真黒・本黒檀」と呼ばれ、最高級品とされています。一方、東南アジアで採れるものは黒色と薄い部分で縞模様を形成しており、「縞黒檀」と呼ばれます。

黒檀軸先
縞黒檀軸先

紫檀も黒檀に似た外観を持ち「檀」という字が入りますが、こちらはマメ科の木材です。広く分類すると、紫檀とされる木は、属をまたいで数十種類あるようですが本紫檀とされるものは数種類になります。主にインドと東南アジア、中央南アメリカが産地で、心材の色は濃い赤紫色や赤褐色です。似た見た目で「花梨」という木材も軸先に使用されますが、こちらも広い分類でいうと紫檀になるようです

紫檀の特徴として、黒檀同様非常に硬く、耐久性に優れているため、古くから高級家具や仏具などに使用されてきました。さらに、紫檀はバラのような微かな香りを持ち、別名ローズウッドと呼ばれます。

紫檀軸先

紫檀と黒檀、そして鉄刀木(たがやさん)を合わせて三大唐木銘木と称されます。唐木(からき・とうぼく)とは名の通り、中国(唐)から伝わった銘木を指します。産地はインドや東南アジアになりますが、やはり中国経由で日本へ渡ってきたことで「唐木」と称されたのでしょう。このようなことから掛け軸に使う場合も文人画、南画や中国の書を表装するときに黒檀や紫檀はよく使用されてきました

中国画掛け軸

以上のことから、黒檀や紫檀は希少性と実用性を兼ね備えた魅力的な素材と言えます。掛け軸を鑑賞する際、これらの銘木が使われた軸先にも目を向けると、作品の趣がさらに深まることと思います

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

御朱印・御影札表装代金改定のお知らせ

拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。皆様におかれましては平素より格別のご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、表題にも記載させていただきましたが、この度は、御朱印・御影札の表装代金を変更する運びとなりました。

価格維持のための努力を続けてまいりましたが、表具材料の高騰が改善されず従来の価格を維持することが困難となり、下記の金額に変更させていただきます。

何卒、ご理解いただきますようお願い申し上げます。

敬具

【価格変更の内容】

・対象「ウェブサイト掲載中の表装カタログ内アイテム」

・価格改定率「現在表示中税抜代金に10%程度」

・価格改定日「令和6年4月1日お承り分より」

以上

あのナッツから取れる塗料【カシュー塗り】

今年は少し早い桜の開花も過ぎ、高野山は新緑のお山へと移りつつあります。

今回は襖の周りに付く縁(ふち)の中でも一般的な塗りの縁について

一般的に、襖縁には黒色の塗り縁が使われます。黒色の塗り縁は、和室の中で引き戸や襖を引き立たせ、美しい和の空間を演出します。また、黒色は汚れが目立ちにくく、日本の風土に合った色とされています。

高級な襖縁には、ウルシ塗りが使われることがあります。ウルシ塗りは、ウルシの樹液を加工して作られる天然の塗料で、美しい光沢と深みがあり、高級感があるため、高級な和室や茶室などで使用されます。また、ウルシは防虫効果があるため、襖縁を長持ちさせることができます。

一方、一般的な襖縁にはカシュー塗りが使われることが多いです。カシュー塗りは、カシューナッツの殻から抽出された樹脂を主成分とする塗料です。ウルシには劣りますが耐久性が高く、環境に優しい塗料として注目を集めています。また、黒色以外にも色を調合することができるため、自由度の高いデザイン性があるという特徴もあります。

カシューナッツの実

ウルシは乾燥させる際に湿度が必要です。ウルシオールという不乾性油が主成分であるため、放置していても乾燥しません。しかし、湿気を与えることで酵素が働き、ウルシは硬化します。一方、カシューもウルシと同じく不乾性油ですが、乾燥に必要な酵素を持ち合わせていません。そのため、乾燥させるための酵素代わりになるものを添加することで、カシューを乾燥させることに成功しました。

また、カシューの特徴として、塗布後には湿気を与えなくても自然乾燥していくため、ウルシよりも扱いが楽だという点もあります。そのため、一般的にはカシューが襖縁などの建築材料に広く用いられています。

ちなみにカシューナッツの上にできる果実はカシューアップルと呼ばれ、食べられるそうです。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

新年あけましておめでとうございます【匁】

新年あけましておめでとうございます

まだまだ国内外問わず情勢が不安定な日々ではございますが、皆様が健康で益々ご発展されますようお祈り申し上げます

本年も何卒宜しくお願い申し上げます

さて我々表具業界は和紙なくしては話にならない業界であります

私のお師匠さんも神様ならぬ紙様!紙に食べさせていただいているのだから粗末に扱うことのないようにと教えられたものです

そんな和紙の厚みを量る単位に「匁(もんめ)」というものが古くから使われており現代では和紙のほかに真珠の計量やタオルの厚みを表すのによく使われております

匁とは元々一文銭の重さの基準で一文銭の目方で「文目」と呼ばれていました。それが匁と書くようになったようです

1匁の重さは3.75gで現代の5円硬貨も3.75gで作られているそうです。

表具で使う和紙は基本1枚が60cm×90cm程度で100枚入りで何匁と表記されていることが多く、その重さによって紙の厚みが変わってきます

この和紙一束は240匁と書かれています。つまり1枚あたり2.4匁=9gです。実際に量ってみました

おおよそ表記通りの厚みになっていることがわかります。しかし個体差は当然あり、もちろん厚みも若干変わってきます。この若干の厚みをよく吟味し最適な厚みの和紙を使うことは表具師の腕の見せ所なのであります

我々はこのような感じで和紙をコショコショ触り、厚みを量ります。そして表装中の掛け軸の厚みやしなやかさ、選んだ和紙で裏打ちした後の仕上がりを予測し最適であろう一枚を選びます

修行中は当然、どれが良いかなどわかるはずもなく師匠が選んだ紙をコショコショし「あーこの時はこんな感じかぁ」と分かったのかわかってないのかコショコショしていました。

ちなみにコショコショが熟練されてくると紙の質もわかるようになり、人間の指はこうも繊細なセンサーなのかと驚かされます。ただそんなセンサーも乾燥と冷えには弱く、カサカサ冷え冷えなときは本当にわからなくなるので、まず保温保湿からになります

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

平安のいろ【ハナ色】

暑さはすっかり落ち着き、高野山は間もなく赤や黄色で染められる季節になります。今回は「ハナ色」という色について調べてみたのですがなかなか面白いことがよくわかりました。

屏風や額の裏に貼るものでよく使われるのが雀形を押した和紙です。この紙の地色は見た目緑色の和紙ですが、表具業界ではよく「ハナ色」と表記されます。

雀形雲母摺り
雀形 ハナ色

ハナ色をインターネットで検索してみると青系の色が出てきますが、緑系の色は見当たりません。ハナ色の素となる一つに露草の花から取った色があります。

露草

もう一つは「縹色(はなだいろ)」から名前が変わったものです

中縹色

我々の良く知っている藍色は昔「縹色」と言われており色の濃さで深縹、中縹、次縹、浅縹と分けられていました。それが江戸時代頃に、はなだ色からハナ色となり伝わりました。なので昔、この青はいわゆる藍色とは別物でした。

では昔の藍色はどんな色を指していたのでしょう。

平安時代の格式を編纂した書物「延喜式」この中の項「縫殿寮 雑染用度条」には当時使われていた色名と色を作るためのレシピが書いてあります。

雑染用度条に深藍色という色があります。これは蓼藍(たであい)から作る青色と黄檗(きはだ)の黄色を重ね染めて、青みがかった緑色をしています。この色合いが昔の藍色でした。

深藍色

ではなぜ我々の想像する藍色ではなく緑っぽい青が藍色と呼ばれていたのでしょうか?

一説には山藍の色を模しているのではという考えがあります。

日本では古くから藍染をしてきましたが大陸から蓼藍が伝わるまで自生している山藍を使った藍染が行われてきたそうです。しかも採取した山藍の葉を布に摺り付けて染める「摺り染」という原始的な染め方で、山藍の色は定着しずらく、すぐに色落ちしたそうです。

しかし山藍色は神事にも使われるものだったらしく蓼藍が普及してからは山藍色を再現すべく蓼藍と黄檗の重ね染めが行われたのではと一説にあります。

山藍摺り色

まとめますと元々の藍色は緑っぽい色

我々の想像する藍色は元々縹色、転じてハナ色

現在藍色といえばインディゴブルーの青色

これらがごちゃ混ぜになって表具的表現の「ハナ色」が完成したのではと自論を展開してみました。

あくまで自論ですので真偽は保証できません。しかし一つの色でこれだけ深堀出来る。楽しくないですか?

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

裏で群れを成しています【雀形】

10年、20年前と比べると高野山も暑い日が増えました。それでも夜はひんやりとした風が吹くところを見ると、さすが高野山となります。さて本日は屏風裏によく使われる文様「雀形(すずめかた)」について

雀形

全体的には七宝繋ぎの文様で菱形の花文を中央に、周りに対の雀を配した文様です。使われだしたのは、とても古いようで鎌倉時代、公家調度品の屏風裏に見られたそうです。しかし、そのころの雀形は今の文様とは少し違いがあり、鳥の種類が違うように見られます。

古くに見られる雀形は鳥文様が「尾長鳥」で鳳凰のような鳥が対に描かれています。この文様は「鳥襷紋(とりたすきもん)」といい、公家男子の衣服の一種「指貫袴(さしぬきはかま)」でよく見られた文様でした。このことから公家調度品の屏風にも使われ始めたようです。それが鳥の種類が雀に変わり雀形と呼ばれているようです。実際の雀は田畑の虫を食べてくれることから屏風裏に雀を描くことで虫がつかないなどと、おまじないのような考えもあったそうです。

鳥襷文
鳥襷紋(とりたすきもん)

歌川国貞の作品「雀形屏風の張交」ではまた変わった雀形が見られます。

歌川国貞 雀形屏風の張交
歌川国貞 雀形起こし
歌川国貞「雀形屏風の張交」描き起こし

人物画の周りに雀形の版木を押してあります。この雀形は中央に向かって雀が向き合っている形です。

今日では、屏風裏用に雀形文様を押した紙が売られており、緑地の和紙に雲母摺りされています。さらに高価なものになると鳥の子紙に雀形文様を手摺りした「京からかみ」を使用します。少し前までは、屏風裏は「ハナ色」と呼ばれる地色に文様を押したものが多かったそうです。今日の緑地和紙やハナ色など青系は、藍染の色由来が多いです。藍染されたものは、防虫効果を期待され屏風を虫から守る一助になっています。

雀形 雲母摺り

ハナ色など藍由来の色も興味深い話があり、次回載せられればと思っております。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

桐箱を保護する外箱今昔【二重箱・畳箱】

五月の高野山、特に三年ぶりに行動制限のないゴールデンウィークは参拝客の皆様で賑わってます。

今回は、桐箱を保護する箱について。桐箱は掛け軸を保護するためですが、その桐箱を保護するための「二重箱(にじゅうばこ)」というものがあります。

二重箱
二重箱

二重箱の形は上画像のようなもので一般的なサイズの掛け軸なら桐箱を横から差し込むように納めます。もっと大きな掛け軸になると二重箱の形が変わり、桐箱を二重箱の中に入れ、上から蓋を被せて収納する形になります。

桐箱は白木で出来ていますが二重箱は基本、漆などでタメ塗を施してあります。

さて掛け軸は、この二重箱へ桐箱と共に納め管理するのが、掛け軸を最も保護できる状態です。しかし最近は二重箱の代用として畳箱(たとうばこ)というものに桐箱を納めることが一般的です。畳箱はボール紙で出来ており桐箱を横から差し込み納めます。

畳箱 柿色
畳箱 柿色

このオレンジ色は、昔柿渋を塗っていたものを模した色です。この色の畳箱が一般的です。

畳箱 灰色
畳箱 灰色

この灰色の畳箱も何かの色を模しているのではと考えます。これは私見ですが松煙墨の色じゃないかと思います(柿渋によっては灰色っぽい色もあるので柿渋色か?)松煙墨には防虫効果があるので桐箱を虫害から保護してくれます。

この畳箱は表面に凸凹表現加工を施してあります。これは昔、畳箱に布を貼り、その上から柿渋などを塗布していた名残を表現しているのだそうです。

新しい桐箱を作った際は、その箱に合った畳箱が付きます。しかし古い桐箱には畳箱がない場合が多いです。その場合は、新規に作ってあげる必要があります。

刷毛引き紙
刷毛引き紙

畳箱作りに使う紙は鳥の子紙という厚めの紙に柿渋を刷毛で塗った「刷毛引き紙」を使います。この紙を桐箱に合わせて切り出し、畳箱にしていきます。

畳箱 展開図

畳箱製作にあたり、いろんな細かなポイントがあるのですが割愛させていただいて、桐箱ピッタリいい感じに畳箱が出来ると、茶筒の蓋のように桐箱がスゥーと納められます。その時の「やったぜ!」感はいいものです。ただ、この「やったぜ感」を味わうためにギリギリの寸法を攻めると桐箱が入らないという残念なことになり、刷毛引き紙が無駄になっちゃいます。達成感と失敗は紙一重なのです。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

御朱印軸でよく見るよ【雲文様小話】

高野山は春の季節を思わせる日が増えて、寒い冬もようやく終わりそうです。

当店は、お大師様のお膝元ということもあり、四国八十八ヶ所霊場の御朱印軸などの表装をご依頼くださるお客様がよく来られます。御朱印軸の裂地に昔から使われている雲文様の裂地があり、その文様についてのお話。

まず、雲を模した文様は「瑞雲」とも呼ばれ吉祥文とされています。実際に気象現象で瑞雲や彩雲と呼ばれる現象があり、この雲が発生すると吉兆と言われています。私も一度だけ見たことがありますが、雲が虹色に輝いて綺麗なものでした。

彩雲  photoAC

また日本古来の信仰に「山上他界」という死生観があり、亡くなった方々は山の上の遥か彼方に旅立ち、そこに極楽浄土があると考えました。よって山の遥か上を象徴する雲に極楽浄土を連想したようです。

さて今回の話題の裂地の初めは「霊芝雲」です。

霊芝 photoAC

霊芝はサルノコシカケの仲間で別名「万年茸」中国では不老長寿の薬草とされ古くから重宝されました。そんな霊芝に似た雲の文様である霊芝雲を繋いだ裂地が「富田金襴」です。

富田金襴

富田金襴は、安土桃山時代の武将「富田左近知信」が豊臣秀吉から拝領し、愛蔵したことからこの名で伝わったそうです。よく似た裂地に「嵯峨金襴」があり、こちらは仏日常光国師の袈裟裂として知られています。

次に紹介する文様が「四つ手雲」です。名の通り雲文から四方にたなびく雲が手のように出ています。これは瑞雲を文様化したであろうもので、大陸から影響を受け日本で成熟した「雅楽」で使われる衣装にも、この文様が見られ中国文化の名残が見られます。

四つ手雲金襴

今回紹介した文様が御朱印軸などでよく使われてきた裂地ですが、文様一つ一つの意味が吉祥や極楽浄土、不老長寿と仏教に関連する意味合いの文様が多いことがわかりました。

これから良い気候が増えてきます。青空の下、気持ちよさそうに浮く雲を見つつ、のびのびとどこか遊びに行きたいものです。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

新年あけましておめでとうございます【虎と竹】

新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。

今年の干支といえば「寅」。古くから日本画の画題としてよく描かれてきました。しかし日本には野生の虎は生息していないので、昔の絵師は中国などから渡ってきた虎の絵を見本にし、猫の姿を参考にしつつ描いたという話は有名でしょうか。たしかに古い虎の絵を見ますと少し迫力に欠ける猫の面影が見え隠れする虎が多いことでしょう。

取り合わせが良いもののたとえに「獅子に牡丹 虎に竹 梅に鶯 紅葉に鹿」といった言葉があるように、虎の絵に竹が描かれているものがよく見られます。

虎に竹がセットで描かれるには諸説あるようです。昔、虎は中国から東南アジア北部、インドまでとアジア大陸の広範囲に生息していました。獰猛な動物である虎は一見、敵なしのように思いますが、象には太刀打ちできなかったようです。虎は象に襲われたときは、竹藪に逃げて難を逃れます。すると象は牙にヒビが入ることを恐れ、竹藪には入ってこないそうです。

少し話が逸れますが、古くから「象牙素材のものを持って竹藪に入ってはいけない」と言われているそうです。これは象牙が温度差により、ヒビが入る可能性のためではないかと言われており、ひんやりとした竹に象牙が触れると温度差でヒビが入るということです。

話戻って、象の脅威から逃れられる竹藪は虎にとって安息地であり、おのずと虎と竹のセットになっていったのかもしれません。

別の説では、奈良県法隆寺所蔵の国宝「玉虫厨子」にあります。この厨子は青緑に輝く玉虫の羽で装飾され、側面の一つに仏教の説話「捨身飼虎(しゃしんしこ)」の図が描かれています。

捨身飼虎 は、お釈迦様の前世物語の一つであります。「あるところに三人の王子がおりました。三人は森の奥深く歩いていると、飢えて動けなくなっている虎の親子に遭遇します。一人の王子が虎に自分の身を差し出し、飢えた虎の親子を救うことを決心します。しかし、虎は噛みつく力もないほど弱っていました。そこで王子は崖に上り、飛び降りることで虎に血肉を与えることができました。この慈悲深い王子がお釈迦様の前世である摩訶薩埵王子であった。」簡単に説明しますと、こんな物語です。

その捨身飼虎図が飛鳥時代のものとされる玉虫厨子に描かれており、竹林に虎がセットで描かれています。

元々、竹林で虎を見かけることが多かったのかもしれませんが、上記のような仏教説話が伝わるのと同時に虎と竹の組み合わせも広まっていったのかもしれません。

新年から長々と下手な文章を連ねておりますが、このような日本画や表装についてのアレコレを載せてまいります。たまに見てやってください。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

癒し系金襴【花兎】

今月18日は十三夜でした。十五夜のお月見をしたら十三夜のお月見も、したほうがいいと最近知りました。日本では、お月さんに兎を見ますよね。これはインドの「ジャータカ」という仏話からきたものらしく、ざっくりいうと「修行する動物たちを試した帝釈天が兎の慈悲深い行動を皆に見せるため月に映した」から月に兎というわけです。

中国で兎は縁起の良いもので、裂地の文様でも見ることができます。有名なのが「花兎(はなうさぎ)」と呼ばれる文様です。

花兎金襴
花兎金襴

花樹の下に振り返った兎の組み合わせがよくある構図で、文様自体は画像のようにカマボコの断面図みたいな形(作土文)をしています。

花兎文は鎌倉時代~室町時代にかけて禅宗と一緒に伝来しました。その時、中国からの影響を受けた寺院建築では「瓦燈窓(かとうまど)」と呼ばれる装飾が見られ、やがて茶室にも「火灯口(かとうぐち)」という名で取り入れられます。

瓦燈窓イメージ
瓦燈窓 イメージ
茶室 火灯口 イメージ
茶室 火灯口 イメージ

この火灯という形が花兎文様の作土文に似ており、また火灯(かとう)に花兎(かと)を当て字したのが由来という説もあり、花兎は禅や仏教とその建築様式の要素が混ざった文様なんだと思います。そんな花兎は、茶室で掛ける軸の仕立によく使用されます。

ほぼ同じ文様で「角倉金襴(すみのくら金襴)」という文様があります。これは、安土桃山時代の豪商「角倉了以」が好んだ裂地のことです。花兎金襴との違いは、本当に分かりにくいですが、角倉金襴の方が兎や花樹が具体的に表現されているように思います。花兎文様を見かけたときは「果たして花兎か、角倉か」と頭を悩ましてください。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂