掛け軸の形の違い|真・行・草と表装形式の考え方

掛け軸の形式を決める考え方

掛け軸の形式は、見た目の違いだけでなく、作品の格や性格、鑑賞の場を考慮して定められてきました。 表装では、真・行・草という考え方を基準に、裂地の使い方や構成が選ばれます。 掛け軸の形式は、大きく「真・行・草」に分かれ、さらにそれぞれの中で段階があります。

真の形式

下左図は「真の真」と呼ばれる、最も格式の高い表装形式です。この形式では、作品(本紙)を中心に、それぞれの裂地が全体を囲うように配置されます。

まず本紙の周囲を一文字と一文字廻しが囲みます。

その外側を中廻しと中柱が取り囲み、さらに全体の外側を、総縁(柱)と上下の裂地が囲む構成になっています。

また、総縁(柱)上下と中廻し中柱の間、中廻し中柱と一文字(廻し)の間には、「筋」と呼ばれる細い裂地が入り、全体の格調を整えます。

風帯には一文字と同じ柄の裂地を用いるのが特徴です。

この「真の真」から一文字廻しを省いた形式が「真の行」となり、仏画や御朱印軸などによく用いられます。

なお、真の形式では「真の行」以降、風帯は中廻しと同じ柄の裂地で作られます。

さらに「真の行」から一文字と一文字廻しの両方を省いた形式が「真の草」となります。

真の形式
真の真|真の行|真の草

行の形式

行の形式は、日本でもっとも一般的な掛け軸の形式で、「大和表装」とも呼ばれています。日常の書画から宗教に関わる本紙まで幅広く用いられ、実用性と品格を兼ね備えた表装です。

行の形式には「真・行・草」の段階があり、これは装飾の量の違いではなく、裂地の構成によって、場の雰囲気や本紙の格を整えるための考え方です。

下左図は「行の真」の形式です。 天地(上下)・中廻し・柱・一文字・一文字廻しからなり、行の形式の中でも、もっとも要素がそろった構成になります。 裂地の区切りが明確で、全体に引き締まった印象を与えるため、改まった場面や、やや格を意識した本紙に用いられます。風帯には一文字と同じ柄の裂地を使用します。

この「行の真」から、一文字廻しを省略した形式が「行の行」です。「行の行」は三段仕立とも呼ばれ、格式と柔軟性のバランスがよく、現在もっとも多く用いられている汎用的な形式です。

さらに「行の行」から、一文字および一文字廻しを省略した形式が「行の草」です。構成は天地・中廻し・柱のみとなり、裂地の主張を抑えることで、 本紙を主役として見せる表装になります。この場合、風帯は中廻しと同じ柄の裂地を用います。

行の真・行・草は優劣や格付けではなく、掛ける場や本紙の性格に応じて裂地の構成を選び分けるための形式であり、行の形式は日本的な掛け軸のあり方を示しています。

行の形式
行の真|行の行|行の草

草の形式

行の形式をもとに、柱の幅を細くしたものが「草の形式」です。

草の形式は輪補(りんぽ)とも呼ばれ、簡素で静かな佇まいを重んじることから、茶道で用いられる茶掛によく使われる形式です。

草の形式は、行の形式をさらに省略した下位形式ではなく、茶の湯という場の性格に合わせて、本紙を静かに見せることを目的に設計された表装です。 そのため、行の形式のように「真・行・草」という三段階はなく、「草の真」は存在しません。

「行の行」に相当する構成で、柱を細くしたものが「草の行」です。行の行の構成を基本としながら、柱を細くすることで全体の印象を軽くし、茶席にふさわしい控えめな表装となります。

さらに「草の行」から、垂風帯を用いず、裂地や和紙を貼り付けた押風帯とした形式、または天地・中廻し・柱すべてを揉み紙などの和紙で仕立てた形式が「草の草」です。 裂地の装飾性を抑え、素材の質感を生かすことで、本紙の内容や筆致がより直接的に伝わる表装となります。

草の形式
草の行|草の草

文人仕立ての形式

文人仕立ては、真・行・草の序列とは少し異なる考え方に基づく表装です。

文人画の仕立てに多く用いられた形式の代表に、丸表具があります。丸表具は袋表具とも呼ばれ、本紙の周囲に一文字と総地廻しを配した構成です。

丸表具では、本紙と総地廻しの境に細い裂地による筋を入れるのが特徴で、控えめな区切りによって、本紙と周囲をゆるやかに分けながら、全体を一体として見せます。

丸表具には、一文字を省いた形式や、両端に細い裂地を配した形式など、さまざまな様式があります。両端に細い裂地を付けたものは、明朝仕立てとも呼ばれます。

格式や場の改まりを強く意識する表装ではなく、書や画の趣、筆致、余白が自然に伝わる仕立てとして、文人画や中国趣味の作品に多く用いられてきました。

文人仕立ての形式
丸表装(袋表装)|明朝仕立て

表具全体の考え方については、こちらで詳しくまとめています。
表具について|表装の考え方と判断軸