ここでは、表具で使用される織物「裂地(きれじ)」について紹介していきます。
裂地に使う糸にはさまざまな種類があり、絹・綿・紡績糸・化学繊維などがあります。
表具に使用する裂地には大きく分けて2通りあり、横糸に金糸を織り込む「金襴」と金糸を使わない織物です。
金襴には織り込む金糸によって本金襴・合金襴・新金襴があります。
本金襴は、その製造過程において本金箔の金糸を織り込みます。そのため、高価な裂地になります。
縦糸・横糸共に上質な絹糸が使用されます。蚕から作られる絹糸を「正絹」と呼び、正絹を取った後の副産物などから作られるものを「絹紡糸」と呼びます。
本金襴は「正絹」を縦横共に使用します。
なお、本金襴のもう一つの魅力は、金の変色がほとんど起こらないという点です。
金は化学的に安定しており、経年変化や外部要因による変色が少ないため、長期間にわたってその美しさを保ち続けることが可能です。
下画像は正絹牡丹唐草本金襴です。
合金襴は、その製造過程において合金箔の金糸を織り込みます。
金糸以外は縦糸・横糸の両方に「正絹」が使用されることが一般的です。
一方で、「交織合金襴」というバリエーションも存在します。これは、横糸に絹糸を使用し、縦糸には人造絹糸を組み合わせるものです。
なお、合金襴において綿糸を使用したものはほとんど見受けられないようです。
下画像は正絹合金襴と交織合金襴です。
新金襴は、金糸にアルミ箔を加工したものを使用する織物です。
金糸以外は、縦糸・横糸の両方にレーヨン、化学繊維、または綿などが広く使用されます。
下画像は竹屋町風牡丹唐草新金襴です。
これらの裂地は多彩な文様、種類があり、大きく分けると緞子・遠州緞子・錦と分けられます。
緞子(どんす)は、縦糸と横糸それぞれに一色ずつの糸を使用して文様を表現する高級な織物です。
緞子の特徴は、その表面に光沢が感じられることです。この光沢は、織り方と絹糸によって生まれ、緞子の豪華さと上品さを際立たせています。
下画像は正絹高野裂風緞子です。
遠州緞子(えんしゅうどんす)は、一部の表具用裂地を指す場合と、小堀遠州の好みに合わせた裂地を指す場合の二つの意味で用いられます。
遠州緞子は、緞子に比べて光沢が控えめであり、一度に横糸を通す数が増えることで、その本数によって「二丁遠州緞子」や「三丁遠州緞子」といった表記がされます。
横糸を増やすことで、遠州緞子は複数の色を駆使して織られ、緞子よりも色彩豊かな織物が生まれます。
遠州緞子のもう一つの側面は、小堀遠州の好んだ裂地としての意味です。
彼が好み、提唱した裂地は複数ありますが、特に有名なものは「異なる色を並べた石畳紋に唐花や七宝を配した裂地」です。
下画像は正絹二丁遠州緞子と小堀遠州好み裂地です。
経糸(たていと)と横糸(よこいと)に複数の色の糸を組み合わせて、鮮やかな文様を織り上げていく織物を「錦(にしき)」と呼びます。
錦は、大陸から伝わったさまざまな文様やデザインが織り込まれています。
錦は非常に色鮮やかであり、糸の組み合わせによって独特の色彩効果が生まれます。
しかし、製造過程において糸を多重に重ねるため、裂地が厚めのものが多いのが特徴です。
下画像は正絹錦密環蜀江紋です。