表具の伝統技術紹介【高野山表具加勢田芳雲堂】

表具の伝統技術

表装について一覧

表具には独特の技術があり、それは先人が発達させた知恵であります。
このページでは表装技術について一部紹介していきます。

【裏打ち】

この技法は表具において最も基本的なものであり、作品(本紙)を表装していく一番初めの工程になります。
これは本紙や裂地の裏に、和紙などを貼り合わせることから裏打ちと呼ばれます。
軸装の場合、仕上がるまでに最低3回裏打ちされます。その中で一番初めに打たれる裏打ちは、肌裏と呼ばれます。
肌裏を打つことで本紙の場合、色料の定着化を図り、また本紙の補強を行います。
裂地の場合、固定化を図り表装しやすくなり、また裂地の補強を行います。
乾燥後、次に打たれる増裏は肌裏が打たれた本紙や裂地の厚さを増しながら、しなやかさを加えていきます。
特に軸装では巻いて保存するため表装自体のしなやかさが重要視されます。
乾燥させた後、本紙と裂地が組み合わされます。組み合わせ後、全体に更に裏打ちが施されます。
そして総裏という最終の裏打ちが行われます。
この裏打ちで全体の一体化を図り、さらに厚みを増やし補強していきます。
総裏で使用される紙は、表装の裏面として見えるため紙面の美しい宇陀紙を使用します。

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裏打ち

【仮張り】

仮張りとは無地の襖のようなもので、そこに裏打ちをしたものの四辺を貼り付け乾燥させます。
裏打ちされたものはそのまま乾燥させると好きなように縮み乾燥し、真っ直ぐな面にすることは困難です。
よって裏打ち後は仮張りへ貼り付け、均一に張って乾燥させます。
仮張りへの張り具合は表装の仕上がりに影響してくるものなので慎重に行わなければなりません。
(画像は仮張りに貼り付けている様子)

仮張り

【糊】

表装において使用する糊、また糊の濃度は本紙の保存において最も影響してくる事柄です。
特に肌裏打ち時に使用する糊は、本紙に直接影響を与えるため昔から使われてきた澱粉糊が望ましく実績は確かなものです。
しかし澱粉糊は湿度が多いところでは、仕上がったものにカビが発生する場合があります。
また、しなやかさが化学糊と比べ硬めに仕上がる傾向にあります。
それらを解消すべく古糊を入れる方法があります。古糊とは澱粉糊を発酵させたもので抗黴性があります。
しかし古糊を作るには長い歳月を要し、大量に作り置くことは困難なこともあり科学糊との併用を上手に考えなければなりません。
最近では表装用の化学糊が開発されています。
この糊は澱粉糊よりしなやかに仕上がるように感じます。また、この糊によるカビの発生は確認しておりません。
しかしまだ歴史は浅く作品の長期保存においての実績は未熟なものです。
当店では、カビの発生を考え基本的には化学糊を使用し、すべての総裏と古い本紙の裏打ちに関しては澱粉糊・古糊を使用しております。
また、糊の濃度については十分に検討し、乾燥後も水分を含ませれば無理なく紙を剝がせる濃度になるよう常に考慮しております。
糊の濃度については説明できるようなことではなく師から教わり、感覚で覚えていくしかないものです。

古糊

【喰い裂き】

和紙には決まったサイズがあり、表装していく上で、どこかで和紙同士を接がなければなりません。
しかし和紙を接ぎ重ねることによる段差は将来、折れを生じたり継ぎ目の形が表面に現れる要因になります。
そこで「喰い裂き接ぎ」といった方法があります。
これは和紙同士の段差を軽減させ、また接ぎ目を目立ちにくくする効果があります。
まず刷毛などの先に水を含ませ、和紙に細く線を引きます。
後にその線で和紙を裂いていくと断面が毛羽立ちます。
その毛羽立った断面(喰い裂き足)同士を繋ぎ合わせます。
この繋ぎ合わせは特に軸装の総裏打ちで合わせ具合が少ないと継ぎ目が薄くなり表から透けて目立ち、合わせ具合が厚いと折れの要因になるため経験が重要になります。

喰い裂き

【折れ伏せ】

経年劣化した掛け軸や巻物には所々折れや裂けが発生することが多いです。
それらを修理修復していくときに「折れ伏せ」といった技法を用います。
これは本紙の折れた所を裏から、細く切った和紙で部分的に補強していく作業です。
幅2mm程度に切った和紙の真ん中に折れた所が常にくるように貼り付けていく作業は根気がいることです。
もし貼り付けが、ずれていた場合、逆効果で折れを助長するだけになります。
使用する紙は強度と厚みのバランスがいいものを選ばなければなりません。
分厚い紙を使うと新たな折れを招く要因になり、強度に乏しい紙だと補強の意味が薄れてしまいます。

折れ伏せ

【打ち刷毛】

表装において糊の濃度は出来るだけ薄いほうがよい場合が多いです。
特に軸装では最低三回の裏打ちがあり且つ、しなやかさも求められます。
そこで、増裏・総裏には薄い糊で裏打ちし、そこへ打ち刷毛による打ち込みで和紙同士をより接着させる方法がとられます。
打ち刷毛の打ち込みによって和紙同士の繊維が絡まり、より強固な接着を図ります。
また、このときに生じる小さな穴(刷毛の毛先による打ち込み跡)は乾燥時間の短縮や、しなやかさを増す手助けとなります。
この刷毛は見た目が刷毛に見えず表具の道具の中でも特徴的なもののひとつではないでしょうか。

打ち刷毛

【裏擦り(数珠擦り)】

軸装の最終段階で、仮張りから外したものを裏から数珠状の道具で擦ります。
擦ることによってこれまでの糊による強張りを解消していき、表装全体に更なるしなやかさを加えていきます。
元々はムクロジの種子を数珠にしたものを使っていましたが今日では、水晶やガラス球に変わっております。

数珠擦り

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